アルベルトとミレイユが公の場で並ぶまで
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*帝国創立祭・幕開け前の一幕(小説形式) [#vad0c71e]
式典の開幕を目前に控えた控え室は、「小部屋」と呼ぶにはあ...
だが、その贅を尽くした空間の中で、ミレイユ・セリーナ・ヴ...
それは、威厳であり、内に揺れるものを押し込めるための姿勢...
黒一色のドレスは、その若さと気高さを際立たせる。まとめら...
その姿はまさに、帝国六大公家の一角を担う者にふさわしい威...
――だが、ほんのわずかに、その表情は揺れていた。
控え室も、創立祭の式典も、毎年の恒例。
アリアとマーサが用意してくれた装いに不備などあるはずもな...
間もなく現れるはずのバルモント将軍を待つだけの時間。けれ...
その時だった。重厚な扉が静かに開いた。
「ミレイユ様、お待たせしました」
低く柔らかな声とともに、バルモント将軍が姿を現す。その隣...
「将軍。……ギルバートおじさまも。今日はお二人そろって……何...
あえて問いを投げかける形式をとるが、すでに彼女は直感して...
だが、それを表に出すことはしない。それが「公爵」としての...
将軍は、彼女の揺れを見透かしたように微笑む。
「ミレイユ様に、ご紹介したい者がいます。……あなたの傍らに...
「私からも、ぜひと思ってね。今日という日は、紹介にふさわ...
ギルバートの声は穏やかで、どこか含みを持っていた。
それがまた、ミレイユの胸を静かにざわつかせる。
将軍がうなずき、扉の奥に向かって声をかけた。
「入室を」
次の瞬間、扉の奥から一人の青年が姿を現した。
深い黒の軍服――ヴァルトライン家の象徴色を身にまとい、堂々...
アルベルト・マルティニ。
その名も、その顔も、彼女にとってあまりに馴染み深いものだ...
けれど、今ここに立つ彼は、親しい青年ではない。
帝国軍の一員として、そしてヴァルトライン家の傍に立つ者と...
二人は言葉もなく、ただ静かに目を合わせた。
互いに、その心を交わすように――。
そんな様子を見て、将軍は小さく笑みを浮かべた。
「改めてご紹介いたしましょう。彼は、アルベルト・マルティ...
ミレイユは何も言わなかった。
ただ、その青い瞳にわずかな潤みが浮かび、揺れる感情の輪郭...
セリアン当主も続けて微笑を浮かべる。
「我がセリアンの分家、マルティニ家の次男でしてね。商業の...
将軍は少し声を落とし、静かに言った。
「私は、長らくあなたの隣に立ってきました。ですが、そろそ...
その言葉に背を押されるように、アルベルトが一歩前へ進み出...
「ヴァルトライン大公殿下、アルベルト・マルティニと申しま...
その声には、誓いと覚悟、そして言葉にできぬ想いが込められ...
ミレイユもまた、形式を崩さず応じる。
「マルティニ大佐、ミレイユ・セリーナ・ヴァルトラインです...
形式に従った挨拶。それは一見、ただの儀礼にすぎない。
だが、その内側に流れていたものを知る者にとっては、何より...
将軍と公爵は、それぞれに満足げな微笑を浮かべる。
「……ミレイユ様、彼に相応しい懐中時計が必要だと思いません...
ふと、バルモント将軍が静かに口を開いた。
その視線が、ミレイユの背後に控えるアリアへと向けられる。
すぐにアリアが前に出た。手には黒革の小さなケースを持って...
その中身を察して、ミレイユのまつ毛がかすかに震えた。
(……そういうことだったのね)
アリアが式典前に装飾品が仕舞ってある場所を妙に気にしてい...
アリアは、ミレイユにしかわからない小さな笑みを浮かべ、そ...
「ありがとう、アリア」
ミレイユはそれを両手で受け取り、静かに蓋を開ける。
中には、漆黒の金属で仕立てられた懐中時計。ヴァルトライン...
その重みを掌に受け止めながら、ミレイユは記憶の奥底へと意...
あれは、まだ彼女が当主となったばかりの頃。
久々に取り出されたこの懐中時計を手にした時、マーサが懐か...
「ええ。お嬢様が四つの時でした。『お父様の時計、見せて』...
その言葉に呼び起こされた記憶は、両親がまだ健在だったあの...
フリードリヒが差し出してくれた懐中時計は、彼の大きな掌に...
幼いミレイユがそれを両手で抱え込んだ瞬間、重さにふらつい...
『ミレイユにはちょっと大きいなぁ』
そう笑う父に、母が微笑んで返す。
『そうね。でも――きっとミレイユのお婿さんには、ちょうどい...
『…まだ四歳ですよ、セリーナ』
『ふふ、気が早かったかしら? でも……私たちのお姫様には、...
そう言いながら、母はミレイユの髪を撫で、優しくキスを落と...
――あの温もりは、今も消えず胸の奥に残っている。
目の前の時計を見つめ、ミレイユは静かに想いを重ねた。
今でも、彼女の手には少しだけ大きい。
けれど――きっと、彼には、ちょうどいい。
ミレイユは時計をそっと箱から取り出すと、顔を上げる。
目の前に立つ青年の瞳と、まっすぐに視線を交わしながら。
時計を見つめるミレイユの横顔を見ながら、ギルバート・セリ...
「……まさか。あれを……彼に託すとはな」
彼の低く押し殺した声に、傍らのバルモント将軍が答える。
「……ああ、あの時計だ」
ギルバートは懐かしむように目を細める。
「フリードリヒ殿が、婚約祝いにセリーナ様から贈られたもの...
「よく磨いて、大事にされていた。戦地にも肌身離さず持って...
時計に込められた記憶が、その場にいた年長者たちの胸にも蘇...
ミレイユはそっとアルベルトの前に進み出ると、時計を両手で...
彼女は一歩、アルベルトに近づいた。
「私の父が身に付けていた、前大公の形見です」
彼女の手が、震えずにアルベルトへと時計を差し出した。
「アルベルト・マルティニ大佐。あなたがこれを持っていてく...
その声は確かに、公的な響きを纏いながらも、静かな祈りと信...
アルベルトは片膝をつき、両手で慎重に時計を受け取ると、胸...
まるで、心の中にしまうように。
「……身に余る光栄です。この時計のように、時間の流れを共に...
それは、誓いにも似た静かな言葉だった。
アルベルトの言葉に、ミレイユの胸に積もっていた緊張が、ゆ...
そして彼は、再び顔を上げた。
アルベルトが、ミレイユの前で静かに手を差し伸べる。
「この先、どのような道でも、あなたと共に歩む覚悟です。……...
ミレイユはその手を、何のためらいもなく取った。
「ええ。――どこまでも」
パーティはまだ始まっていない。
だがこの瞬間、二人の物語は、確かに新たな一歩を踏み出して...
終了行:
*帝国創立祭・幕開け前の一幕(小説形式) [#vad0c71e]
式典の開幕を目前に控えた控え室は、「小部屋」と呼ぶにはあ...
だが、その贅を尽くした空間の中で、ミレイユ・セリーナ・ヴ...
それは、威厳であり、内に揺れるものを押し込めるための姿勢...
黒一色のドレスは、その若さと気高さを際立たせる。まとめら...
その姿はまさに、帝国六大公家の一角を担う者にふさわしい威...
――だが、ほんのわずかに、その表情は揺れていた。
控え室も、創立祭の式典も、毎年の恒例。
アリアとマーサが用意してくれた装いに不備などあるはずもな...
間もなく現れるはずのバルモント将軍を待つだけの時間。けれ...
その時だった。重厚な扉が静かに開いた。
「ミレイユ様、お待たせしました」
低く柔らかな声とともに、バルモント将軍が姿を現す。その隣...
「将軍。……ギルバートおじさまも。今日はお二人そろって……何...
あえて問いを投げかける形式をとるが、すでに彼女は直感して...
だが、それを表に出すことはしない。それが「公爵」としての...
将軍は、彼女の揺れを見透かしたように微笑む。
「ミレイユ様に、ご紹介したい者がいます。……あなたの傍らに...
「私からも、ぜひと思ってね。今日という日は、紹介にふさわ...
ギルバートの声は穏やかで、どこか含みを持っていた。
それがまた、ミレイユの胸を静かにざわつかせる。
将軍がうなずき、扉の奥に向かって声をかけた。
「入室を」
次の瞬間、扉の奥から一人の青年が姿を現した。
深い黒の軍服――ヴァルトライン家の象徴色を身にまとい、堂々...
アルベルト・マルティニ。
その名も、その顔も、彼女にとってあまりに馴染み深いものだ...
けれど、今ここに立つ彼は、親しい青年ではない。
帝国軍の一員として、そしてヴァルトライン家の傍に立つ者と...
二人は言葉もなく、ただ静かに目を合わせた。
互いに、その心を交わすように――。
そんな様子を見て、将軍は小さく笑みを浮かべた。
「改めてご紹介いたしましょう。彼は、アルベルト・マルティ...
ミレイユは何も言わなかった。
ただ、その青い瞳にわずかな潤みが浮かび、揺れる感情の輪郭...
セリアン当主も続けて微笑を浮かべる。
「我がセリアンの分家、マルティニ家の次男でしてね。商業の...
将軍は少し声を落とし、静かに言った。
「私は、長らくあなたの隣に立ってきました。ですが、そろそ...
その言葉に背を押されるように、アルベルトが一歩前へ進み出...
「ヴァルトライン大公殿下、アルベルト・マルティニと申しま...
その声には、誓いと覚悟、そして言葉にできぬ想いが込められ...
ミレイユもまた、形式を崩さず応じる。
「マルティニ大佐、ミレイユ・セリーナ・ヴァルトラインです...
形式に従った挨拶。それは一見、ただの儀礼にすぎない。
だが、その内側に流れていたものを知る者にとっては、何より...
将軍と公爵は、それぞれに満足げな微笑を浮かべる。
「……ミレイユ様、彼に相応しい懐中時計が必要だと思いません...
ふと、バルモント将軍が静かに口を開いた。
その視線が、ミレイユの背後に控えるアリアへと向けられる。
すぐにアリアが前に出た。手には黒革の小さなケースを持って...
その中身を察して、ミレイユのまつ毛がかすかに震えた。
(……そういうことだったのね)
アリアが式典前に装飾品が仕舞ってある場所を妙に気にしてい...
アリアは、ミレイユにしかわからない小さな笑みを浮かべ、そ...
「ありがとう、アリア」
ミレイユはそれを両手で受け取り、静かに蓋を開ける。
中には、漆黒の金属で仕立てられた懐中時計。ヴァルトライン...
その重みを掌に受け止めながら、ミレイユは記憶の奥底へと意...
あれは、まだ彼女が当主となったばかりの頃。
久々に取り出されたこの懐中時計を手にした時、マーサが懐か...
「ええ。お嬢様が四つの時でした。『お父様の時計、見せて』...
その言葉に呼び起こされた記憶は、両親がまだ健在だったあの...
フリードリヒが差し出してくれた懐中時計は、彼の大きな掌に...
幼いミレイユがそれを両手で抱え込んだ瞬間、重さにふらつい...
『ミレイユにはちょっと大きいなぁ』
そう笑う父に、母が微笑んで返す。
『そうね。でも――きっとミレイユのお婿さんには、ちょうどい...
『…まだ四歳ですよ、セリーナ』
『ふふ、気が早かったかしら? でも……私たちのお姫様には、...
そう言いながら、母はミレイユの髪を撫で、優しくキスを落と...
――あの温もりは、今も消えず胸の奥に残っている。
目の前の時計を見つめ、ミレイユは静かに想いを重ねた。
今でも、彼女の手には少しだけ大きい。
けれど――きっと、彼には、ちょうどいい。
ミレイユは時計をそっと箱から取り出すと、顔を上げる。
目の前に立つ青年の瞳と、まっすぐに視線を交わしながら。
時計を見つめるミレイユの横顔を見ながら、ギルバート・セリ...
「……まさか。あれを……彼に託すとはな」
彼の低く押し殺した声に、傍らのバルモント将軍が答える。
「……ああ、あの時計だ」
ギルバートは懐かしむように目を細める。
「フリードリヒ殿が、婚約祝いにセリーナ様から贈られたもの...
「よく磨いて、大事にされていた。戦地にも肌身離さず持って...
時計に込められた記憶が、その場にいた年長者たちの胸にも蘇...
ミレイユはそっとアルベルトの前に進み出ると、時計を両手で...
彼女は一歩、アルベルトに近づいた。
「私の父が身に付けていた、前大公の形見です」
彼女の手が、震えずにアルベルトへと時計を差し出した。
「アルベルト・マルティニ大佐。あなたがこれを持っていてく...
その声は確かに、公的な響きを纏いながらも、静かな祈りと信...
アルベルトは片膝をつき、両手で慎重に時計を受け取ると、胸...
まるで、心の中にしまうように。
「……身に余る光栄です。この時計のように、時間の流れを共に...
それは、誓いにも似た静かな言葉だった。
アルベルトの言葉に、ミレイユの胸に積もっていた緊張が、ゆ...
そして彼は、再び顔を上げた。
アルベルトが、ミレイユの前で静かに手を差し伸べる。
「この先、どのような道でも、あなたと共に歩む覚悟です。……...
ミレイユはその手を、何のためらいもなく取った。
「ええ。――どこまでも」
パーティはまだ始まっていない。
だがこの瞬間、二人の物語は、確かに新たな一歩を踏み出して...
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